Override キーワードと New キーワードによるバージョン管理 (C# プログラミング ガイド)

  • [アーティクル]

C# 言語は、異なるライブラリ内の基底クラスと派生クラス間でのバージョン管理を進化させると同時に、下位互換性も維持されるよう設計されています。 そのため、たとえば、派生クラスのメンバーと同じ名前を使用して基底クラスの新規メンバーが導入されても、C# では完全にサポートされ、予期しない動作は発生しません。 ただしこのことは、メソッドが派生メソッドをオーバーライドするためのものなのか、それとも同じ名前の派生メソッドを非表示にする新規メソッドなのかを、クラスで明示的に記述しなければならないということでもあります。

C# では、派生クラスに基底クラスと同じ名前のメソッドを含めることができます。

  • 派生クラスのメソッドの前に new または override キーワードがない場合、コンパイラは警告を発し、メソッドは new キーワードが存在する場合と同様に動作します。

  • 派生クラスのメソッドの前に new キーワードがある場合、そのメソッドは基底クラスのメソッドに依存しないメソッドとして定義されます。

  • 派生クラスのメソッドの前に override キーワードがある場合、派生クラスのオブジェクトは、基底クラスのメソッドの代わりにそのメソッドを呼び出します。

  • 派生クラスのメソッドに override キーワードを適用するには、基底クラスのメソッドを仮想に定義する必要があります。

  • 基底クラスのメソッドは、base キーワードを使用して派生クラス内から呼び出すことができます。

  • override、 virtual、および new キーワードは、プロパティ、インデクサー、およびイベントにも適用できます。

既定では、C# のメソッドは仮想ではありません。 メソッドが仮想として宣言されている場合、そのメソッドを継承しているすべてのクラスは、独自のバージョンを実装できます。 仮想メソッドを仮想にするには、基底クラスのメソッド宣言で virtual 修飾子を使用します。 その後、派生クラスは override キーワードを使用して基底の仮想メソッドをオーバーライドするか、または new キーワードを使用して基底クラスの仮想メソッドを非表示にできます。 override と new のいずれのキーワードも指定されていない場合、コンパイラは警告を発し、派生クラスのメソッドは基底クラスのメソッドを非表示にします。

実演的な例として、会社 A が GraphicsClass というクラスを作成し、プログラムで使用する場合について説明します。 次のコードは GraphicsClass です。

class GraphicsClass
{
    public virtual void DrawLine() { }
    public virtual void DrawPoint() { }
}

この会社では、このクラスを使用して独自のクラスを派生させ、新しいメソッドを追加しました。

class YourDerivedGraphicsClass : GraphicsClass
{
    public void DrawRectangle() { }
}

このアプリケーションは、会社 A が GraphicsClass の新しいバージョン (次のようなコード) をリリースするまでは、問題なく使用できていました。

class GraphicsClass
{
    public virtual void DrawLine() { }
    public virtual void DrawPoint() { }
    public virtual void DrawRectangle() { }
}

GraphicsClass の新バージョンに、DrawRectangle というメソッドが含まれていますが、 当初は何も起こりませんでした。 新バージョンでは、旧バージョンとのバイナリ互換性が維持されています。 配置したソフトウェアは、それらのコンピューター システムに新しいクラスがインストールされても、機能し続けます。 DrawRectangle メソッドへの既存の呼び出しは、派生クラス内のバージョンを引き続き参照します。

しかし、GraphicsClass の新バージョンを使用してアプリケーションを再コンパイルした途端、コンパイラから警告 (CS0108) が発せられます。 この警告は、アプリケーション内での DrawRectangle メソッドの動作方法を検討する必要があることを示しています。

このメソッドで新しい基底クラスをオーバーライドする場合は、override キーワードを使用します。

class YourDerivedGraphicsClass : GraphicsClass
{
    public override void DrawRectangle() { }
}

override キーワードを使用すると、YourDerivedGraphicsClass から派生したすべてのオブジェクトは、派生クラス バージョンの DrawRectangle を使用するようになります。 YourDerivedGraphicsClass から派生したオブジェクトは、base キーワードを使用することで基底クラス バージョンの DrawRectangle にもアクセスできます。

base.DrawRectangle();

このメソッドで新しい基底クラス メソッドをオーバーライドしない場合には、次の考慮事項が適用されます。 2 つのメソッド間の混乱を避けるために、メソッドの名前を変更できます。 これは時間がかかるうえにエラーが起こりやすいため、場合によっては実用的でない可能性があります。 ただし、プロジェクトが比較的小さい場合は、Visual Studio のリファクタリング オプションを使用して、メソッドの名前を変更することができます。 詳しくは、「クラスおよび型のリファクタリング (クラス デザイナー)」をご覧ください。

なお、派生クラスの定義内で new キーワードを使用することで、警告を回避することもできます。

class YourDerivedGraphicsClass : GraphicsClass
{
    public new void DrawRectangle() { }
}

new キーワードを使用すると、その定義によって基底クラス内の定義が非表示にされることがコンパイラに伝えられます。 これが既定の動作です。

オーバーライドとメソッド選択

クラスでメソッドを指定したときに、その呼び出しと互換性のあるメソッドが 2 つ以上ある場合、C# コンパイラはどのメソッドを呼び出すのが最適かを選択します (たとえば、同じ名前のメソッドが 2 つあり、そのパラメーターと、渡されたパラメーターとの間に互換性がある場合)。 たとえば、次の各メソッドには互換性があります。

public class Derived : Base
{
    public override void DoWork(int param) { }
    public void DoWork(double param) { }
}

Derived のインスタンスで DoWork が呼び出されると、C# コンパイラはまず、Derived で最初に宣言された DoWork のバージョンと互換性がある呼び出しを実行しようとします。 オーバーライド メソッドは、クラスで宣言されたものとは見なされません。これらは、基底クラスで宣言されたメソッドの新しい実装です。 C# コンパイラは、メソッドの呼び出しを Derived にある元のメソッドと対応付けできない場合にのみ、その呼び出しを、同じ名前と互換パラメーターを持つオーバーライド メソッドに対応付けます。 次に例を示します。

int val = 5;
Derived d = new Derived();
d.DoWork(val);  // Calls DoWork(double).

変数 val は double 型に暗黙的に変換できるので、C# コンパイラは DoWork(int) の代わりに DoWork(double) を呼び出します。 この問題を回避する方法は 2 つあります。 1 つ目は、仮想メソッドと同じ名前の新しいメソッドを宣言しないようにすることです。 2 つ目は、Derived のインスタンスを Base にキャストすることで、C# コンパイラに基底クラス メソッドのリストを検索させ、仮想メソッドを呼び出すようにすることです。 メソッドが仮想なので、Derived にある DoWork(int) の実装が呼び出されます。 次に例を示します。

((Base)d).DoWork(val);  // Calls DoWork(int) on Derived.

new と override の例について詳しくは、「Override キーワードと New キーワードを使用する場合について」をご覧ください。

関連項目