C# から C++/WinRT への Clipboard サンプルの移植 - ケース スタディ

このトピックでは、ユニバーサル Windows プラットフォーム (UWP) アプリのサンプルのいずれかを C# から C++/WinRT へ移植するケース スタディについて説明します。 チュートリアルの手順を実行し、サンプルを自分で移植することにより、移植を練習し経験を得ることができます。

C# から C++/WinRT への移植に関する技術的な詳細の総合的な分類については、関連トピック「C# から C++/WinRT への移行」を参照してください。

C# と C++ のソース コード ファイルに関する簡単な概要

C# プロジェクトでは、ソース コード ファイルは主に .cs ファイルです。 C++ に移動すると、使用するソース コード ファイルの種類が多いことがわかります。 その理由は、コンパイラ間の差異、C++ ソース コードの再利用方法、型とその関数 (メソッド) の "宣言" および "定義" の概念に関係しています。

関数の "宣言" では、関数の "シグネチャ" (戻り値の型、その名前、パラメーターの型および名前) だけを記述します。 関数の "定義" には、関数の "本文" (その実装) が含まれています。

型に関しては、事情が少し異なります。 型を "定義" するには、その名前を指定して、(少なくとも) そのメンバー関数 (およびその他のメンバー) をすべて "宣言" するだけでかまいません。 つまり、メンバー関数を定義していない場合でも、型を "定義" できます。

  • 一般的な C++ ソース コード ファイルは .h ("ドット エッチ") および .cpp ファイルです。 .h ファイルは "ヘッダー" ファイルです。ここでは、1 つまたは複数の型を定義します。 ヘッダーでメンバー関数を定義することも "できます" が、通常は .cpp ファイルを使用します。 そのため、たとえば C++ の型 MyClass の場合、MyClass.hMyClass を定義し、MyClass.cpp でそのメンバー関数を定義します。 他の開発者がクラスを再利用できるようにするには、.h ファイルとオブジェクト コードだけを共有します。 実装は知的財産で構成されているため、.cpp ファイルは秘密にしておきます。
  • プリコンパイル済みヘッダー (pch.h)。 通常、アプリケーションに含めるヘッダー ファイルのセットがあり、それらのファイルを頻繁に変更することはありません。 そのため、コンパイルするたびにその一連のヘッダーの内容を処理するのではなく、これらのヘッダーを 1 つのファイルに集約し、それを一度コンパイルしてから、ビルドするたびにそのプリコンパイル手順の出力を使用できます。 これは、"プリコンパイル済みヘッダー" ファイル (通常、名前は pch.h) を使用して実行します。
  • .idl ファイル。 これらのファイルには、インターフェイス定義言語 (IDL) が含まれています。 IDL は Windows ランタイム型のヘッダー ファイルと考えることができます。 IDL の詳細については、「Mainpage 型の IDL」セクションを参照してください。

Clipboard サンプルをダウンロードしてテストする

Clipboard サンプルの Web ページにアクセスし、「Download ZIP (ZIP のダウンロード)」をクリックします。 ダウンロードしたファイルを解凍し、フォルダー構造を確認します。

  • C# バージョンのサンプル ソース コードは、cs という名前のフォルダーに格納されています。
  • C++/WinRT バージョンのサンプル ソース コードは、cppwinrt という名前のフォルダーに格納されています。
  • 他のファイル (C# バージョンと C++/WinRT バージョンの両方で使用されるファイル) は、shared および SharedContent フォルダーにあります。

このトピックのチュートリアルでは、C# のソース コードから移植することにより、Clipboard サンプルの C++/WinRT バージョンを再作成する方法について説明します。 これにより、独自の C# プロジェクトを C++/WinRT に移植する方法を確認できます。

このサンプルの動作を理解するには、C# ソリューション (\Clipboard_sample\cs\Clipboard.sln) を開き、必要に応じて構成を変更し (おそらく x64 に)、ビルドして、実行します。 サンプルの独自のユーザー インターフェイス (UI) では、さまざまな機能について順を追って説明します。

ヒント

ダウンロードしたサンプルのルート フォルダーは、Clipboard_sample ではなく Clipboard という名前が付けられている可能性があります。 ただし、後の手順で作成する C++/WinRT バージョンと区別するために、引き続きそのフォルダーを Clipboard_sample と呼びます。

Clipboard という名前の空のアプリ (C++/WinRT) を作成する

注意

C++/WinRT Visual Studio Extension (VSIX) と NuGet パッケージ (両者が連携してプロジェクト テンプレートとビルドをサポート) のインストールと使用については、Visual Studio での C++/WinRT のサポートに関する記事を参照してください。

Microsoft Visual Studio で新しい C++/WinRT プロジェクトを作成することにより、移植プロセスを始めます。 [空のアプリ (C++WinRT)] プロジェクト テンプレートを使用して新しいプロジェクトを作成します。 その名前を Clipboard にして、(フォルダー構造がチュートリアルと一致するように) [ソリューションとプロジェクトを同じディレクトリに配置する] がオフになっていることを確認します。

ベースラインを確立することだけを目的として、この新しい空のプロジェクトをビルドして実行します。

Package.appxmanifest、資産ファイル

C# バージョンと C++/WinRT バージョンのサンプルを同じコンピューターにサイド バイ サイドでインストールする必要がない場合は、2 つのプロジェクトのアプリケーション パッケージ マニフェスト ソース ファイル (Package.appxmanifest) を同じにすることができます。 その場合は、C# プロジェクトから C++/WinRT プロジェクトに Package.appxmanifest をコピーするだけで、作業は終了です。

2 つのバージョンのサンプルを共存させる場合は、異なる識別子が必要です。 その場合は、C++/WinRT プロジェクトで、Package.appxmanifest ファイルを XML エディターで開き、次の 3 つの値を記録します。

  • /Package/Identity 要素内で、Name 属性の値を記録します。 これは "パッケージ名" です。 新しく作成されたプロジェクトでは、プロジェクトによって一意の GUID の初期値に設定されます。
  • /Package/Applications/Application 要素内で、Id 属性の値を記録します。 これは "アプリケーション ID" です。
  • /Package/mp:PhoneIdentity 要素内で、PhoneProductId 属性の値を記録します。 やはり、新しく作成されたプロジェクトでは、パッケージ名と同じ GUID に設定されます。

次に、C# プロジェクトから C++/WinRT プロジェクに Package.appxmanifest をコピーします。 最後に、記録した 3 つの値を復元できます。 または、コピーした値を編集し、(新しいプロジェクトでは通常そうするように) アプリケーションや組織に対して一意または適切な値にすることができます。 たとえば、この例では、パッケージ名の値を元に戻すのではなく、Microsoft.SDKSamples.Clipboard.CS からコピーした値を Microsoft.SDKSamples.Clipboard.CppWinRT に単に変更できます。 アプリケーション ID は App のままにしてかまいません。 パッケージ名 "または" アプリケーション ID が異なっている場合、2 つのアプリケーションのアプリケーション ユーザー モデル ID (AUMID) は異なる値になります。 これは、2 つのアプリを同じコンピューターに同時にインストールするために必要です。

このチュートリアルでは、Package.appxmanifest で他にもいくつか変更を行います。 Clipboard C# Sample という文字列が 3 箇所に出現します。 それを Clipboard C++/WinRT Sample に変更します。

C++/WinRT プロジェクトでは、Package.appxmanifest ファイルとプロジェクトは、参照している資産ファイルに関して同期されなくなります。 これを解決するには、まず、(Visual Studio のソリューション エクスプローラーで) Assets フォルダー内のすべてのファイルを選択し、それらを削除する (ダイアログで [削除] を選択する) ことにより、C++/WinRT プロジェクトから資産を削除します。

C# プロジェクトでは、共有フォルダーから資産ファイルが参照されます。 C++/WinRT プロジェクトでも同じようにするのでも、このチュートリアルで行うようにファイルをコピーするのでもかまいません。

\Clipboard_sample\SharedContent\media フォルダーに移動します C# プロジェクトに含まれる 7 つのファイル (microsoft-sdk.pngsmalltile-sdk.pngsplash-sdk.pngsquaretile-sdk.pngstorelogo-sdk.pngtile-sdk.pngwindows-sdk.png) を選択し、それらをコピーして、新しいプロジェクトの \Clipboard\Clipboard\Assets フォルダーに貼り付けます。

(ソリューション エクスプローラーの C++/WinRT プロジェクトで) Assets フォルダーを右クリックし、>[追加]>[既存の項目...] を選択し、\Clipboard\Clipboard\Assets に移動します。 ファイル ピッカーで 7 つのファイルを選択し、[追加] をクリックします。

Package.appxmanifest が、プロジェクトの資産ファイルと同期されるようになります。

サンプルを構成するための機能を含む MainPage

Clipboard サンプルも、すべてのユニバーサル Windows プラットフォーム (UWP) アプリ サンプルと同様に、ユーザーが一度に 1 つずつ進めることができるシナリオのコレクションで構成されています。 特定のサンプルのシナリオのコレクションは、サンプルのソース コードで構成されています。 コレクション内の各シナリオは、タイトルを格納するデータ項目と、シナリオを実装するプロジェクトのクラスの型です。

サンプル C# バージョンでは、SampleConfiguration.cs ソース コード ファイルを調べると、2 つのクラスがあります。 ほとんどの構成ロジックは、MainPage クラスに含まれています。これは部分クラスです (MainPage.xaml のマークアップおよび MainPage.xaml.cs の命令型コードと組み合わされると、完全なクラスになります)。 このソース コード ファイルのもう 1 つのクラスは、Scenario とその Title および ClassType プロパティです。

次のいくつかのサブセクションでは、MainPageScenario を移植する方法について説明します。

MainPage 型の IDL

このセクションでは最初に、インターフェイス定義言語 (IDL: Interface Definition Language) と、それが C++/WinRT のプログラミング時にどのように役立つかについて簡単に説明します。 IDL は、Windows ランタイム型の呼び出し可能な領域を記述するソース コードの種類です。 型の呼び出し可能 (パブリック) な領域が "投影"、公開されて、その型が使用できるようになります。 型の "投影" されるこの部分は、型の実際の内部実装 (当然呼び出し不可能で、パブリックでない部分) と対照を成します。 投影されるのは、IDL で定義する部分のみになります。

(.idl ファイル内で) IDL ソース コードを作成したら、その IDL をマシンが読み取り可能なメタデータ ファイル (Windows メタデータとも呼ばれます) にコンパイルできます。 これらのメタデータには拡張子 .winmd が付いています。その用途をいくつか以下に示します。

  • .winmd では、コンポーネントの Windows ランタイム型を記述します。 アプリケーション プロジェクトから Windows ランタイム コンポーネント (WRC) を参照すると、WRC に属する Windows メタデータ (このメタデータは別のファイル内にあるか、WRC そのものとして同じファイルにパッケージ化されています) がアプリケーション プロジェクトによって読み取られ、アプリケーション内から WRC の型を使用できるようになります。
  • .winmd では、アプリケーションのある部分の Windows ランタイム型を記述して、それらを同じアプリケーションの別の部分でも使用できるようにできます。 たとえば、同じアプリの XAML ページで使用される Windows ランタイム型などです。
  • Windows ランタイム型を (組み込みまたはサード パーティで) 簡単に使用できるように、C++/WinRT のビルド システムでは、.winmd ファイルを使用して、それらの Windows ランタイム型の投影される部分を表すラッパー型を生成します。
  • 独自の Windows ランタイム型を簡単に実装できるように、C++/WinRT のビルド システムでは、IDL を .winmd ファイルに変換してから、それを使用して投影用のラッパーと、実装のベースとなるスタブを生成します (これらのスタブについては、このトピックで後ほど説明します)。

ここで C++/WinRT と共に使用する IDL の特定のバージョンは、Microsoft インターフェイス定義言語 3.0 です。 トピックのこのセクションの残りの部分では、C# の MainPage 型について詳しく説明します。 C++/WinRT の MainPage 型の "投影" で必要な部分 (つまり、呼び出し可能またはパブリックな領域) と、実装に含めるだけでよい部分を決定します。 この区別が重要なのは、IDL を作成する際に (これはこの後のセクションで実行します)、その中で呼び出し可能な部分だけを定義することになるためです。

MainPage 型を実装している C# のソース コード ファイルは、MainPage.xaml (この後すぐ、コピーすることによって移植します)、MainPage.xaml.csSampleConfiguration.cs です。

C++/WinRT バージョンでは、同様の方法で MainPage 型をソース コード ファイルにファクタリングします。 MainPage.xaml.cs のロジックを取得し、その大部分を MainPage.hMainPage.cpp に変換します。 SampleConfiguration.cs のロジックについては、SampleConfiguration.hSampleConfiguration.cpp に変換します。

C# ユニバーサル Windows プラットフォーム (UWP) アプリケーションのクラスは、もちろん Windows ランタイム型です。 ただし、C++/WinRT アプリケーションで型を作成するときは、その型が Windows ランタイム型であるか、または通常の C++ クラス、構造体、列挙であるかを選択できます。

プロジェクトの XAML ページが Windows ランタイム型である必要があるため、MainPage は Windows ランタイム型にする必要があります。 C++/WinRT プロジェクトでは、MainPage は既に Windows ランタイム型であるため、その部分を変更する必要はありません。 具体的には、それは "ランタイム クラス" です。

  • 指定した型に対してランタイム クラスを作成するかどうかについて詳しくは、「C++/WinRT での API の作成」をご覧ください。
  • C++/WinRT では、ランタイム クラスの内部実装と、その投影される (パブリックな) 部分が、2 つの異なるクラスの形式で存在します。 これらは、"実装型" および "投影型" と呼ばれます。 これらの詳細については、前の箇条書きで示したトピックのほか、「C++/WinRT での API の使用」を参照してください。
  • ランタイム クラスと IDL (.idl ファイル) の間の接続に関する情報については、「XAML コントロール: C++/WinRT プロパティへのバインド」トピックを参照して従ってください。 そのトピックでは、新しいランタイム クラスを作成する手順が示されています。その最初のステップでは、新しい Midl ファイル (.idl) 項目をプロジェクトに追加します。

MainPage の場合、実際は必要な MainPage.idl ファイルが C++/WinRT プロジェクトに既に存在しています。 これは、プロジェクト テンプレートによって作成されたためです。 ただし、このチュートリアルでは、後でさらに .idl ファイルをプロジェクトに追加します。

既存の MainPage.idl ファイルに追加する必要がある IDL の正確な一覧は、こので後すぐに示します。 その前に、IDL に含める必要があるものと、必要がないものについての理由を示します。

MainPage.idl で宣言する必要がある MainPage のメンバーと (MainPage ランタイム クラスの一部にするため)、単に MainPage 実装型のメンバーにできるものを決定するため、C# の MainPage クラスのメンバーの一覧を作成してみます。 それらのメンバーを探すには、MainPage.xaml.csSampleConfiguration.cs を調べます。

全部で 12 個の protected および private のフィールドとメソッドが見つかります。 そして、次の public メンバーが見つかります。

  • 既定のコンストラクター MainPage()
  • 静的フィールド CurrentFEATURE_NAME
  • プロパティ IsClipboardContentChangedEnabledScenarios
  • メソッド BuildClipboardFormatsOutputStringDisplayToastEnableClipboardContentChangedNotificationsNotifyUser

MainPage.idl で宣言する候補となるのは、それらの public メンバーです。 それぞれを調べて、MainPage ランタイム クラスに含める必要があるか、または単に実装の一部にする必要があるかを確認します。

  • 既定のコンストラクター MainPage()。 XAML のページの場合、IDL 内で既定のコンストラクターを宣言するのが普通です。 それにより、XAML UI フレームワークで型をアクティブ化できます。
  • 静的フィールド Current は、アプリケーションの MainPage のインスタンスにアクセスするため、シナリオの個々の XAML ページ内から使用されます。 Current は XAML フレームワークとの相互運用には使用されないため (コンパイル単位間でも使用されません)、単に実装型のメンバーにすることができます。 実際のプロジェクトでも、このような場合は、同じようにできます。 ただし、このフィールドは投影型のインスタンスなので、IDL で宣言することが論理的であると考えられます。 そのため、ここではそのようにします (これにより、コードが若干簡潔になります)。
  • 静的な FEATURE_NAME フィールドの場合も似ており、Mainpage.xaml 型内でアクセスされます。 やはり、IDL 内で宣言するようにすると、コードが多少簡潔になります。
  • プロパティ IsClipboardContentChangedEnabled は、OtherScenarios クラスでのみ使用されます。 そのため、移植では少し単純化し、OtherScenarios ランタイム クラスのプライベート フィールドにします。 したがって、それは IDL に入れません。
  • プロパティ ScenariosScenario 型 (前に説明した型) のオブジェクトのコレクションです。 Scenario については次のサブセクションで説明するので、Scenarios プロパティについてもそれまでこのままにします。
  • メソッド BuildClipboardFormatsOutputStringDisplayToastEnableClipboardContentChangedNotifications は、メイン ページというよりサンプルの一般的な状態に関係するユーティリティ関数です。 そのため、移植では、これら 3 つのメソッドを SampleState という名前の新しいユーティリティ型にリファクタリングします (これは、Windows ランタイム型である必要はありません)。 したがって、これら 3 つのメソッドは IDL には移動されません。
  • NotifyUser メソッドは、静的 Current フィールドから返される MainPage のインスタンス上の個々のシナリオ XAML ページ内から呼び出されます。 (既に説明したように) Current は投影型のインスタンスであるため、IDL で NotifyUser を宣言する必要があります。 NotifyUser は、NotifyType 型のパラメーターを受け取ります。 それについては、次のサブセクションで説明します。

データ バインドするメンバーも IDL で宣言する必要があります ({x:Bind} または {Binding} のどちらを使用しているかに関係なく)。 詳しくは、「データ バインディング」をご覧ください。

作業は進んでいます。MainPage.idl ファイルに追加するメンバーと追加しないメンバーの一覧を作成しています。 ただし、Scenarios プロパティと、NotifyType 型についてまだ検討する必要があります。 そこで、次にそれを行います。

Scenario 型と NotifyType 型の IDL

Scenario クラスは SampleConfiguration.cs で定義されています。 そのクラスを C++/WinRT に移植する方法を決定する必要があります。 既定では、おそらく通常の C++ の struct にします。 ただし、Scenario がバイナリ間で使用されている場合、または XAML フレームワークと相互運用する場合は、IDL で Windows ランタイム型として宣言する必要があります。

C# のソース コードを調べると、このコンテキストで Scenario が使用されていることがわかります。

<ListBox x:Name="ScenarioControl" ... >
var itemCollection = new List<Scenario>();
int i = 1;
foreach (Scenario s in scenarios)
{
    itemCollection.Add(new Scenario { Title = $"{i++}) {s.Title}", ClassType = s.ClassType });
}
ScenarioControl.ItemsSource = itemCollection;

Scenario オブジェクトのコレクションは、ListBox (項目コントロール) の ItemsSource プロパティに割り当てられます。 Scenario は XAML と相互運用する必要が "ある" ため、Windows ランタイム型にする必要があります。 そのため、IDL で定義する必要があります。 Scenario 型を IDL で定義すると、C++/WinRT のビルド システムによって、Scenario のソース コード定義がバックグラウンドのヘッダー ファイル (このチュートリアルでは、その名前と場所は重要ではありません) に自動的に生成されます。

また、MainPage.Scenarios は、IDL にする必要がある Scenario オブジェクトのコレクションであることを思い出してください。 そのため、MainPage.Scenarios 自体も IDL で宣言する必要があります。

NotifyType は、C# の MainPage.xaml.cs で宣言されている enum です。 MainPage ランタイム クラスに属するメソッドに NotifyType を渡すため、NotifyType も Windows ランタイム型である必要があり、MainPage.idl で定義する必要があります。

次に、IDL で宣言することに決めた Mainpage の新しい型と新しいメンバーを MainPage.idl ファイルに追加します。 同時に、Visual Studio のプロジェクト テンプレートによって提供されていた Mainpage のプレースホルダー メンバーを、IDL から削除します。

そのため、C++/WinRT プロジェクトで MainPage.idl を開き、次のリストのように編集します。 編集の 1 つで、名前空間の名前を Clipboard から SDKTemplate に変更していることに注意してください。 必要に応じて、MainPage.idl の内容全体を次のコードで置き換えることもできます。 もう 1 つの注意点は、Scenario::ClassType の名前を Scenario::ClassName に変更していることです。

// MainPage.idl
namespace SDKTemplate
{
    struct Scenario
    {
        String Title;
        Windows.UI.Xaml.Interop.TypeName ClassName;
    };

    enum NotifyType
    {
        StatusMessage,
        ErrorMessage
    };

    [default_interface]
    runtimeclass MainPage : Windows.UI.Xaml.Controls.Page
    {
        MainPage();

        static MainPage Current{ get; };
        static String FEATURE_NAME{ get; };

        static Windows.Foundation.Collections.IVector<Scenario> scenarios{ get; };

        void NotifyUser(String strMessage, NotifyType type);
    };
}

注意

C++/WinRT プロジェクトでの .idl ファイルの内容について詳しくは、Microsoft インターフェイス定義言語 3.0 に関する記事をご覧ください。

実際の移植作業では、ここで行っているような名前空間の名前の変更が望ましくない、または必要ない場合があります。 ここでそれを行っているのは、移植している C# プロジェクトの既定の名前空間が SDKTemplate であるためです。一方で、プロジェクトとアセンブリの名前は Clipboard です。

ただし、このチュートリアルで移植を進めていく間に、ソース コードに出現するすべての Clipboard という名前空間名を、SDKTemplate に変更します。 また、C++/WinRT プロジェクトのプロパティにも Clipboard という名前空間名が使用されている場所があるので、この機会にそれを変更します。

Visual Studio の C++/WinRT プロジェクトで、プロジェクトのプロパティ[共通プロパティ]>[C++/WinRT]>[ルート名前空間]の値を SDKTemplate に設定します。

IDL を保存してスタブ ファイルを再生成する

XAML コントロール: C++/WinRT プロパティへのバインド」トピックでは、"スタブ ファイル" の概念を紹介し、それらの動作について説明しています。 このトピックでも、C++/WinRT のビルド システムでは .idl ファイルの内容を Windows メタデータに変換し、そのメタデータから実装のベースとなるスタブが cppwinrt.exe というツールによって生成されることを説明した前のところで、スタブについて説明しました。

IDL の内容を追加、削除、または変更し、ビルドを行うたびに、これらのスタブ ファイルのスタブ実装はビルド システムによって更新されます。 そのため、IDL を変更してビルドを行うたびに、これらのスタブ ファイルを確認し、変更されたシグネチャをコピーして、それらをご自分のプロジェクトに貼り付けることをお勧めします。 これを実行する正確な方法の詳細と例については、後で説明します。 ただし、これを実行するメリットは、実装型のあるべき形とそのメソッドの必要なシグネチャをいつでも間違いなく把握できることです。

ここまでで、MainPage.idl ファイルの編集はひとまず完了したので、保存する必要があります。 現時点ではプロジェクトのビルドは完了しませんが、ここでビルドを実行しておくと、MainPage 用のスタブ ファイルを再生成されるため、役に立ちます。 そのため、ここでプロジェクトをビルドし、ビルド エラーは無視します。

この C++/WinRT プロジェクトでは、スタブ ファイルは \Clipboard\Clipboard\Generated Files\sources フォルダーに生成されます。 部分的なビルドが終了すると、そこでスタブ ファイルが見つかります (ここでも、予想どおり、ビルドは完全には成功しません。ただし、関心のあるスタブ生成ステップは成功して "います")。 重要なファイルは MainPage.hMainPage.cpp です。

それら 2 つのスタブ ファイルには、IDL に追加した MainPage のメンバーの新しいスタブ実装が含まれます (たとえば、CurrentFEATURE_NAME)。 それらのスタブ実装を、プロジェクトに既に存在する MainPage.h ファイルと MainPage.cpp ファイルにコピーします。 同時に、IDL で行ったのと同じように、それらの既存ファイルから、Visual Studio のプロジェクト テンプレートによって自動的に生成された Mainpage のプレースホルダー メンバーを削除します (MyProperty という名前のダミー プロパティ、および ClickHandler という名前のイベント ハンドラー)。

実際、現在のバージョンの MainPage のメンバーで残しておく必要があるものは、コンストラクターだけです。

スタブ ファイルから新しいメンバーをコピーし、不要なメンバーを削除して、名前空間を更新すると、プロジェクトの MainPage.h ファイルと MainPage.cpp ファイルは以下のコード リストのようになります。 2 種類の MainPage があります。 1 つはimplementation 名前空間、2 つ目は factory_implementation 名前空間にあります。 factory_implementation に対する唯一の変更点は、SDKTemplate をその名前空間に追加することだけです。

// MainPage.h
#pragma once
#include "MainPage.g.h"

namespace winrt::SDKTemplate::implementation
{
    struct MainPage : MainPageT<MainPage>
    {
        MainPage();

        static SDKTemplate::MainPage Current();
        static hstring FEATURE_NAME();
        static Windows::Foundation::Collections::IVector<SDKTemplate::Scenario> scenarios();
        void NotifyUser(hstring const& strMessage, SDKTemplate::NotifyType const& type);
    };
}
namespace winrt::SDKTemplate::factory_implementation
{
    struct MainPage : MainPageT<MainPage, implementation::MainPage>
    {
    };
}
// MainPage.cpp
#include "pch.h"
#include "MainPage.h"
#include "MainPage.g.cpp"

namespace winrt::SDKTemplate::implementation
{
    MainPage::MainPage()
    {
        InitializeComponent();
    }
    SDKTemplate::MainPage MainPage::Current()
    {
        throw hresult_not_implemented();
    }
    hstring MainPage::FEATURE_NAME()
    {
        throw hresult_not_implemented();
    }
    Windows::Foundation::Collections::IVector<SDKTemplate::Scenario> MainPage::scenarios()
    {
        throw hresult_not_implemented();
    }
    void MainPage::NotifyUser(hstring const& strMessage, SDKTemplate::NotifyType const& type)
    {
        throw hresult_not_implemented();
    }
}

文字列の場合、C# では System.String が使用されます。 例については、MainPage.NotifyUser メソッドを参照してください。 この IDL では、文字列は String で宣言されており、cppwinrt.exe ツールによる C++/WinRT のコードの自動生成では、winrt::hstring 型が使用されます。 C# のコードで文字列が使用されている場合は常に、それを winrt::hstring に移植します。 詳しくは、「C++/WinRT での文字列の処理」をご覧ください。

メソッドのシグネチャでの const& パラメーターについては、「パラメーターの引き渡し」をご覧ください。

残りのすべての名前空間の宣言と参照を更新してビルドする

C++/WinRT プロジェクトをビルドする前に、Clipboard 名前空間を宣言 (および参照) している箇所をすべて検索し、SDKTemplate に変更します。

  • MainPage.xaml および App.xaml。 名前空間は、x:Class 属性と xmlns:local 属性の値に含まれます。
  • App.idl=
  • App.h=
  • App.cpp= 2 つの using namespace ディレクティブ (部分文字列 using namespace Clipboard を検索) と、MainPage 型の 2 つの修飾 (Clipboard::MainPage を検索)。 それらの変更が必要です。

MainPage からイベント ハンドラーを削除したので、MainPage.xaml に移動し、マークアップから Button 要素も削除します。

すべてのファイルを保存します。 ソリューションをクリーンアップし ([ビルド]>[ソリューションのクリーン])、ビルドを行います。 ここまでのすべての変更に正確に従っていれば、ビルドは成功するはずです。

IDL で宣言した MainPage のメンバーを実装する

コンストラクター、CurrentFEATURE_NAME

次に示すのは、移植する必要のある関連するコード (C# プロジェクトから) です。

<!-- MainPage.xaml -->
...
<TextBlock x:Name="SampleTitle" ... />
...
// MainPage.xaml.cs
...
public sealed partial class MainPage : Page
{
    public static MainPage Current;

    public MainPage()
    {
        InitializeComponent();
        Current = this;
        SampleTitle.Text = FEATURE_NAME;
    }
...
}
...

// SampleConfiguration.cs
...
public partial class MainPage : Page
{
    public const string FEATURE_NAME = "Clipboard C# sample";
...
}
...

後で、MainPage.xaml を (コピーして) そのまま再利用します。 ここ (下) では、TextBlock 要素を、適切な名前を付けて、C++/WinRT プロジェクトの MainPage.xaml に一時的に追加します。

FEATURE_NAME は、MainPage の静的フィールドであり (C# の const フィールドの動作は基本的に静的です)、SampleConfiguration.cs で定義されています。 C++/WinRT では、(静的) フィールドではなく、(静的) 読み取り専用プロパティの C++/WinRT 式にします。 C++/WinRT でプロパティ ゲッターを表す方法は、パラメーター (アクセサー) を受け取らずにプロパティの値を返す関数です。 したがって、C# の FEATURE_NAME 静的フィールドは、C++/WinRT では FEATURE_NAME 静的アクセサー関数になります (この場合は、文字列リテラルを返します)。

ちなみに、C# の読み取り専用プロパティを移植する場合も同じようにします。 C# の書き込み可能プロパティの場合、C++/WinRT でプロパティ セッターを表す方法は、パラメーター (ミューテーター) としてプロパティの値を受け取る void 関数です。 どちらの場合も、C# のフィールドまたはプロパティが静的である場合は、C++/WinRT のアクセサーまたはミューテーターも静的になります。

Current は、MainPage の静的 (定数ではない) フィールドです。 ここでも、それを読み取り専用プロパティ (の C++/WinRT 表現) にし、やはり静的にします。 FEATURE_NAME は定数ですが、Current はそうではありません。 そのため、C++/WinRT では、バッキング フィールドが必要であり、アクセサーではそれが返されます。 したがって、C++/WinRT プロジェクトでは、current という名前のプライベート静的フィールドを MainPage.h で宣言し、MainPage.cppcurrent を定義および初期化して (静的ストレージの存続期間があるため)、Current という名前のパブリック静的アクセサー関数を使用してアクセスします。

コンストラクター自体でいくつかの割り当てが実行されますが、これは簡単に移植できます。

C++/WinRT プロジェクトでは、[Visual C++]>[コード]>[C++ファイル (.cpp)] で、SampleConfiguration.cpp という名前の新しい項目を追加します。

以下のリストと一致するように、MainPage.xamlMainPage.hMainPage.cppSampleConfiguration.cpp を編集します。

<!-- MainPage.xaml -->
...
<StackPanel ...>
    <TextBlock x:Name="SampleTitle" />
</StackPanel>
...
// MainPage.h
...
namespace winrt::SDKTemplate::implementation
{
    struct MainPage : MainPageT<MainPage>
    {
...
        static SDKTemplate::MainPage Current() { return current; }
...
    private:
        static SDKTemplate::MainPage current;
...
    };
...
}

// MainPage.cpp
...
namespace winrt::SDKTemplate::implementation
{
    SDKTemplate::MainPage MainPage::current{ nullptr };

    MainPage::MainPage()
    {
        InitializeComponent();
        MainPage::current = *this;
        SampleTitle().Text(FEATURE_NAME());
    }
...
}

// SampleConfiguration.cpp
#include "pch.h"
#include "MainPage.h"

using namespace winrt;
using namespace SDKTemplate;

hstring implementation::MainPage::FEATURE_NAME()
{
    return L"Clipboard C++/WinRT Sample";
}

また、MainPage::Current() および MainPage::FEATURE_NAME()MainPage.cpp から、既存の関数本体を削除します。これらのメソッドは他の場所で定義されているためです。

ご覧のように、MainPage::currentSDKTemplate::MainPage 型として宣言されており、これは投影型です。 実装型である SDKTemplate::implementation::MainPage 型ではありません。 投影型は、XAML 相互運用のためにプロジェクト内で、またはバイナリ全体で、使用するように設計されています。 実装型は、投影型で公開した機能を実装するために使用する型です。 MainPage::current の宣言 (MainPage.h 内) は、実装名前空間 (winrt::SDKTemplate::implementation) 内にあるため、修飾されていない MainPage では実装型が参照されます。 したがって、MainPage::current が投影型 winrt::SDKTemplate::MainPage のインスタンスであることを明確にするため、SDKTemplate:: で修飾します。

コンストラクターには、MainPage::current = *this; に関連して説明が必要な点がいくつかあります。

  • 実装型のメンバー内で this ポインターを使用するときは、当然、this ポインターは "実装型へのポインターです"。
  • this ポインターを対応する投影型に変換するには、それを逆参照します。 (ここで行ったように) IDL から実装型を生成すると、実装型にはそれを投影型に変換する変換演算子があります。 そのため、ここでは割り当てが機能します。

それらについて詳しくは、「実装型とインターフェイスをインスタンス化して返す」をご覧ください。

また、コンストラクターでも SampleTitle().Text(FEATURE_NAME()); です。 SampleTitle() の部分は、SampleTitle という名前の簡単なアクセサー関数の呼び出しであり、XAML に追加した TextBlock が返されます。 XAML 要素 x:Name を使用するたびに、XAML コンパイラによってその要素の名前が付けられたアクセサーが自動的に生成されます。 .Text(...) の部分では、SampleTitle アクセサーから返された TextBlock オブジェクトに対して、Text ミューテーター関数を呼び出します。 FEATURE_NAME() では、静的な MainPage::FEATURE_NAME アクセサー関数が呼び出されて、文字列リテラルが返されます。 全体として、そのコード行では、SampleTitle という名前の TextBlockText プロパティが設定されます。

Windows ランタイムでは文字列はワイドであるため、文字列リテラルを移植するには、その前にワイド文字エンコード プレフィックス L を付けてあることに注意してください。 たとえば、"a string literal" は L"a string literal" に変更します。 「ワイド文字列リテラル」も参照してください。

シナリオ

関連する C# コードで移植する必要があるものを次に示します。

// MainPage.xaml.cs
...
public sealed partial class MainPage : Page
{
...
    public List<Scenario> Scenarios
    {
        get { return this.scenarios; }
    }
...
}
...

// SampleConfiguration.cs
...
public partial class MainPage : Page
{
...
    List<Scenario> scenarios = new List<Scenario>
    {
        new Scenario() { Title = "Copy and paste text", ClassType = typeof(CopyText) },
        new Scenario() { Title = "Copy and paste an image", ClassType = typeof(CopyImage) },
        new Scenario() { Title = "Copy and paste files", ClassType = typeof(CopyFiles) },
        new Scenario() { Title = "Other Clipboard operations", ClassType = typeof(OtherScenarios) }
    };
...
}
...

以前の調査で、この Scenario オブジェクトのコレクションは ListBox に表示されることがわかっています。 C++/WinRT では、アイテム コントロールの ItemsSource プロパティに割り当てることができる "コレクションの種類" には制限があります。 コレクションはベクターまたは監視可能なベクターである必要があり、その要素は次のいずれかである必要があります。

IInspectable のケースでは、要素自体がランタイム クラスでない場合、それらの要素は IInspectable との間でボックス化およびボックス化解除できる種類である必要があります。 これは、それらが Windows ランタイム型である必要があることを意味します (「IInspectable への値のボックス化とボックス化解除」を参照)。

このケース スタディでは、Scenario をランタイム クラスにしませんでした。 ただし、それでも適切なオプションです。 また、実際の移植作業では、ランタイム クラスを使用する必要がある場合もあります。 たとえば、要素の型を "監視可能" にする必要がある場合 (「XAML コントロール: C++/WinRT プロパティへのバインド」を参照)、または他の理由によって要素がメソッドを持つ必要があり、それが単なるデータ メンバーのセットではない場合などです。

このチュートリアルでは、Scenario 型に対してランタイム クラスを使用 "しない" ため、ボックス化について考える必要があります。 Scenario を C++ の通常の struct にした場合は、それをボックス化することはできません。 しかし、Scenario を IDL で struct として宣言したので、それをボックス化 "できます"。

Scenario を事前にボックス化するか、または ItemsSource に割り当てるまで待って、ジャストインタイムでボックス化するかを、選択できます。 ここでは、これら 2 つのオプションに関する考慮事項について説明します。

  • 事前のボックス化。 このオプションでは、データ メンバーは IInspectable のコレクションであり、UI に割り当てる準備ができています。 初期化時に、Scenario をそのデータ メンバーにボックス化します。 そのコレクションのコピーは 1 つしか必要ありませんが、フィールドの読み取りが必要になるたびに要素のボックス化を解除する必要があります。
  • ジャストインタイムのボックス化。 このオプションでは、データ メンバーは Scenario のコレクションです。 UI に割り当てる時点で、Scenario オブジェクトをデータ メンバーから IInspectable の新しいコレクションにボックス化します。 ボックス化を解除しなくてもデータ メンバーの要素のフィールドを読み取ることができますが、コレクションのコピーが 2 つ必要です。

ご覧のように、このような小さなコレクションでは、長所と短所はほとんど差し引きゼロになります。 そのため、このケース スタディでは、ジャストインタイムのオプションを使用します。

scenarios メンバーは MainPage のフィールドであり、SampleConfiguration.cs において定義および初期化されています。 また、ScenariosMainPage の読み取り専用プロパティであり、MainPage.xaml.cs において定義されています (そして、単に scenarios フィールドを返すように実装されています)。 C++/WinRT プロジェクトでも似たようなことを行います。ただし、2 つのメンバーを静的にします (アプリケーション全体で 1 つのインスタンスのみが必要であり、クラス インスタンスを必要とせずにアクセスできるようにするため)。 それらに、それぞれ scenariosInner および scenarios という名前を付けます。 MainPage.hscenariosInner を宣言します。 また、静的ストレージ存続期間があるため、.cpp ファイル (この場合は SampleConfiguration.cpp) の中で定義および初期化します。

以下のリストと一致するように、MainPage.h および SampleConfiguration.cpp を編集します。

// MainPage.h
...
struct MainPage : MainPageT<MainPage>
{
...
    static Windows::Foundation::Collections::IVector<Scenario> scenarios() { return scenariosInner; }
...
private:
    static winrt::Windows::Foundation::Collections::IVector<Scenario> scenariosInner;
...
};

// SampleConfiguration.cpp
...
using namespace Windows::Foundation::Collections;
...
IVector<Scenario> implementation::MainPage::scenariosInner = winrt::single_threaded_observable_vector<Scenario>(
{
    Scenario{ L"Copy and paste text", xaml_typename<SDKTemplate::CopyText>() },
    Scenario{ L"Copy and paste an image", xaml_typename<SDKTemplate::CopyImage>() },
    Scenario{ L"Copy and paste files", xaml_typename<SDKTemplate::CopyFiles>() },
    Scenario{ L"History and roaming", xaml_typename<SDKTemplate::HistoryAndRoaming>() },
    Scenario{ L"Other Clipboard operations", xaml_typename<SDKTemplate::OtherScenarios>() },
});

また、そのメソッドはヘッダー ファイルで定義されているので、MainPage::scenarios() に対する MainPage.cpp から既存の関数本体を削除します。

ご覧のように、SampleConfiguration.cpp では、winrt::single_threaded_observable_vector という名前の C++/WinRT ヘルパー関数を呼び出すことによって、静的データ メンバー scenariosInner を初期化します。 その関数では、新しい Windows ランタイム コレクション オブジェクトが自動的に作成されて、IObservableVector インターフェイスとして返されます。 このサンプルでは、コレクションは "監視可能" ではないため (初期化後に要素の追加や削除を行わないので、必要ありません)、代わりに winrt::single_threaded_vector を呼び出すことができます。 その関数からは、IVector インターフェイスとしてコレクションが返されます。

コレクションおよびそれらへのバインドの詳細については、「XAML アイテム コントロール: C++/WinRT コレクションへのバインド」および「C++/WinRT でのコレクション」を参照してください。

追加した初期化コードは、まだプロジェクトにない型が参照されています (winrt::SDKTemplate::CopyText など)。 それを解決するため、プロジェクトに新しい空の XAML ページを 5 つ追加してみましょう。

5 つの新しい空の XAML ページを追加する

新しい [Visual C++]>[空白のページ (C++/WinRT)] 項目をプロジェクトに追加します ([空白のページ (C++/WinRT)] 項目テンプレートであり、[空白のページ] ではないことに注意してください)。 CopyText と名前を付けます。 新しい XAML ページは、SDKTemplate 名前空間内で定義されています。それが適切です。

上記のプロセスを 4 回繰り返し、XAML ページに CopyImageCopyFilesHistoryAndRoamingOtherScenarios という名前を付けます。

必要であれば、もう一度ビルドできるようになります。

NotifyUser

この C# プロジェクトには、MainPage.xaml.cs での MainPage.NotifyUser メソッドの実装が含まれます。 MainPage.NotifyUserMainPage.UpdateStatus に依存しており、MainPage.UpdateStatus メソッドにはまだ移植されていない XAML 要素に対する依存関係があります。 ここでは、C++/WinRT プロジェクトの UpdateStatus メソッドをスタブにしておき、後でそれを移植します。

関連する C# コードで移植する必要があるものを次に示します。

// MainPage.xaml.cs
...
public void NotifyUser(string strMessage, NotifyType type)
if (Dispatcher.HasThreadAccess)
{
    UpdateStatus(strMessage, type);
}
else
{
    var task = Dispatcher.RunAsync(CoreDispatcherPriority.Normal, () => UpdateStatus(strMessage, type));
}
private void UpdateStatus(string strMessage, NotifyType type) { ... }{
...

NotifyUser では、Windows.UI.Core.CoreDispatcherPriority 列挙型が使用されます。 C++/WinRT では、Windows 名前空間の型を使用する場合は常に、対応する C++/WinRT Windows 名前空間ヘッダー ファイルを含める必要があります (詳細については、「C++/WinRT の使用を開始する」を参照)。 この場合、下のコード リストに示すように、ヘッダーは winrt/Windows.UI.Core.h であり、それを pch.h にインクルードします。

UpdateStatus はプライベートです。 そのため、それを Mainpage.xaml 実装型でプライベート メソッドにします。 UpdateStatus はランタイム クラスで呼び出されないため、IDL では宣言しません。

MainPage.NotifyUser を移植し、MainPage.UpdateStatus をスタブ化した後、C++/WinRT は次のようになります。 このコード リストの後で、詳細をいくつか確認します。

// pch.h
...
#include <winrt/Windows.UI.Core.h>
...

// MainPage.h
...
struct MainPage : MainPageT<MainPage>
{
...
    void NotifyUser(hstring const& strMessage, SDKTemplate::NotifyType const& type);
...
private:
    void UpdateStatus(hstring const& strMessage, SDKTemplate::NotifyType const& type);
...
};

// MainPage.cpp
...
void MainPage::NotifyUser(hstring const& strMessage, SDKTemplate::NotifyType const& type)
{
    if (Dispatcher().HasThreadAccess())
    {
        UpdateStatus(strMessage, type);
    }
    else
    {
        Dispatcher().RunAsync(Windows::UI::Core::CoreDispatcherPriority::Normal, [strMessage, type, this]()
            {
                UpdateStatus(strMessage, type);
            });
    }
}
void MainPage::UpdateStatus(hstring const& strMessage, SDKTemplate::NotifyType const& type)
{
    throw hresult_not_implemented();
}
...

C# では、dot into の入れ子になったプロパティにドット表記を使用することもできます。 したがって、C# の MainPage 型では、それ自体の Dispatcher プロパティに、Dispatcher という構文を使用してアクセスできます。 さらに、C# では、Dispatcher.HasThreadAccess のような構文を使用して、その値に "ドットを付ける" ことができます。 C++/WinRT では、プロパティはアクセサー関数として実装されるため、構文が異なるのは、各関数呼び出しにかっこを追加する点だけです。

C# C++/WinRT
Dispatcher.HasThreadAccess Dispatcher().HasThreadAccess()

C# バージョンの NotifyUserCoreDispatcher.RunAsync を呼び出すと、非同期コールバック デリゲートがラムダ関数として実装されます。 C++/WinRT バージョンでも同じことが行われますが、構文は少し異なります。 C++/WinRT では、後で使用する 2 つのパラメーターと this ポインター (メンバー関数を呼び出すため) を " キャプチャ" します。 ラムダとしてのデリゲートの実装に関する詳細とコード例については、「C++/WinRT でのデリゲートを使用したイベントの処理」を参照してください。 また、この特定のケースでは、var task = の部分を無視することもできます。 非同期で返されるオブジェクトを待機しないため、保存する必要はありません。

MainPage の残りのメンバーを実装する

これまでに移植したものと、まだ移植していないものを確認できるように、MainPage のメンバーの完全な一覧を示します (MainPage.xaml.csSampleConfiguration.cs で実装されているもの)。

メンバー アクセス Status
MainPage コンストラクター public 移植済み
Current プロパティ public 移植済み
FEATURE_NAME プロパティ public 移植済み
IsClipboardContentChangedEnabled プロパティ public 開始前
Scenarios プロパティ public 移植済み
BuildClipboardFormatsOutputString メソッド public 開始前
DisplayToast メソッド public 開始前
EnableClipboardContentChangedNotifications メソッド public 開始前
NotifyUser メソッド public 移植済み
OnNavigatedTo メソッド protected 開始前
isApplicationWindowActive フィールド private 開始前
needToPrintClipboardFormat フィールド private 開始前
scenarios フィールド private 移植済み
Button_Click メソッド private 開始前
DisplayChangedFormats メソッド private 開始前
Footer_Click メソッド private 開始前
HandleClipboardChanged メソッド private 開始前
OnClipboardChanged メソッド private 開始前
OnWindowActivated メソッド private 開始前
ScenarioControl_SelectionChanged メソッド private 開始前
UpdateStatus メソッド private スタブ化

次のいくつかのサブセクションでは、まだ移植されていないメンバーについて説明します。

注意

ソース コードでは、XAML マークアップ (MainPage.xaml) 内の UI 要素が参照されていることがあります。 そのような参照の箇所では、簡単なプレースホルダー要素を XAML に追加することによって一時的に回避します。 そうすることで、各サブセクションの後でプロジェクトを引き続きビルドできます。 別の方法として、ここで C# プロジェクトから MainPage.xaml の内容 "全体" を C++/WinRT プロジェクトにコピーして、参照を解決することもできます。 しかし、そのようにすると、再びビルドできるようになるまでに長い時間がかかります (そのため、途中で発生した入力ミスやその他のエラーが隠される可能性があります)。

MainPage クラスの命令型コードの移植が完了したら、"その後で"、XAML ファイルの内容をコピーし、プロジェクトを引き続きビルドできるようにします。

IsClipboardContentChangedEnabled

これは、取得および設定できる C# プロパティであり、既定では false です。 MainPage のメンバーであり、SampleConfiguration.cs において定義されています。

C++/WinRT では、フィールドとして、アクセサー関数、ミューテーター関数、およびバッキング データ メンバーが必要になります。 IsClipboardContentChangedEnabled では、MainPage 自体の状態ではなく、サンプル内のいずれかのシナリオの状態が表されているため、SampleState という名前の新しいユーティリティ型で新しいメンバーを作成します。 そして、それを SampleConfiguration.cpp ソース コード ファイルで実装し、メンバーを static にします (アプリケーション全体で 1 つのインスタンスのみが必要であり、クラス インスタンスを必要とせずにアクセスできるようにするため)。

SampleConfiguration.cpp を C++/WinRT プロジェクトに追加するため、[Visual C++]>[コード]>[ヘッダー ファイル (.h)] で、SampleConfiguration.h という名前の新しい項目を追加します。 以下のリストと一致するように、SampleConfiguration.h および SampleConfiguration.cpp を編集します。

// SampleConfiguration.h
#pragma once 
#include "pch.h"

namespace winrt::SDKTemplate
{
    struct SampleState
    {
        static bool IsClipboardContentChangedEnabled();
        static void IsClipboardContentChangedEnabled(bool checked);
    private:
        static bool isClipboardContentChangedEnabled;
    };
}

// SampleConfiguration.cpp
...
#include "SampleConfiguration.h"
...
bool SampleState::isClipboardContentChangedEnabled = false;
...
bool SampleState::IsClipboardContentChangedEnabled()
{
    return isClipboardContentChangedEnabled;
}
void SampleState::IsClipboardContentChangedEnabled(bool checked)
{
    if (isClipboardContentChangedEnabled != checked)
    {
        isClipboardContentChangedEnabled = checked;
    }
}

ここでも、static ストレージ (SampleState::isClipboardContentChangedEnabled など) のフィールドを、アプリケーションで 1 回定義する必要があります。また、.cpp ファイルは、そのための適切な場所です (この例では SampleConfiguration.cpp)。

BuildClipboardFormatsOutputString

このメソッドは MainPage のパブリック メンバーであり、SampleConfiguration.cs において定義されています。

// SampleConfiguration.cs
...
public string BuildClipboardFormatsOutputString()
{
    DataPackageView clipboardContent = Windows.ApplicationModel.DataTransfer.Clipboard.GetContent();
    StringBuilder output = new StringBuilder();

    if (clipboardContent != null && clipboardContent.AvailableFormats.Count > 0)
    {
        output.Append("Available formats in the clipboard:");
        foreach (var format in clipboardContent.AvailableFormats)
        {
            output.Append(Environment.NewLine + " * " + format);
        }
    }
    else
    {
        output.Append("The clipboard is empty");
    }
    return output.ToString();
}
...

C++/WinRT では、BuildClipboardFormatsOutputStringSampleState のパブリック静的メソッドにします。 どのインスタンス メンバーにもアクセスしないため、static にできます。

C++/WinRT で Clipboard 型と DataPackageView 型を使用するには、C++/WinRT の Windows 名前空間ヘッダー ファイル winrt/Windows.ApplicationModel.DataTransfer.h をインクルードする必要があります。

C# では、DataPackageView.AvailableFormats プロパティは IReadOnlyList であるため、その Count プロパティにアクセスできます。 C++/WinRT では、DataPackageView::AvailableFormats アクセサー関数から返される IVectorView に、呼び出すことができる Size アクセサー関数が含まれます。

C# の System.Text.StringBuilder 型の使用を移植するには、C++ の標準型 std::wostringstream を使用します。 その型は、ワイド文字列の出力ストリームです (それを使用するには、sstream ヘッダー ファイルをインクルードする必要があります)。 StringBuilder で行うように Append メソッドを使用するのではなく、wostringstream などの出力ストリームでは挿入演算子 (<<) を使用します。 詳細については、「iostream プログラミング」および C++/WinRT の文字列の書式設定に関する記事を参照してください。

C# のコードでは、new キーワードを使用して StringBuilder を構築します。 C# では、オブジェクトは既定では参照型であり、new を使用してヒープで宣言されます。 最新の標準 C++ では、オブジェクトは既定では値型であり、(new を使用せずに) スタックで宣言されています。 そのため、StringBuilder output = new StringBuilder(); は、単純な std::wostringstream output; として C++/WinRT に移植します。

C# の var キーワードは、コンパイラに型を推定するように要求します。 var は、C++/WinRT では auto に移植します。 ただし、C++/WinRT では、(コピーを回避するために) 推定 (推測) された型を "参照" し、auto& で推論された型への lvalue 参照を表します。 また、lvalue または rvalue で初期化されるかどうかにかかわらず、適切にバインドされる特殊な参照が必要な場合もあります。 それは、auto&& で表します。 次に示す移植されたコードの for ループで、この形式が使用されています。 lvaluesrvalues の概要については、「値のカテゴリと、その参照」を参照してください。

以下のリストと一致するように、pch.hSampleConfiguration.hSampleConfiguration.cpp を編集します。

// pch.h
...
#include <sstream>
#include "winrt/Windows.ApplicationModel.DataTransfer.h"
...

// SampleConfiguration.h
...
struct SampleState
{
    static hstring BuildClipboardFormatsOutputString();
    ...
}
...

// SampleConfiguration.cpp
...
using namespace Windows::ApplicationModel::DataTransfer;
...
hstring SampleState::BuildClipboardFormatsOutputString()
{
    DataPackageView clipboardContent{ Clipboard::GetContent() };
    std::wostringstream output;

    if (clipboardContent && clipboardContent.AvailableFormats().Size() > 0)
    {
        output << L"Available formats in the clipboard:";
        for (auto&& format : clipboardContent.AvailableFormats())
        {
            output << std::endl << L" * " << std::wstring_view(format);
        }
    }
    else
    {
        output << L"The clipboard is empty";
    }

    return hstring{ output.str() };
}

注意

コード行 DataPackageView clipboardContent{ Clipboard::GetContent() }; の構文では、"均一な初期化" と呼ばれる最新の C++ 標準の機能が使用されており、= 符号ではなく中かっこの特徴的な使用が示されています。 この構文を使用すると、代入ではなく初期化が行われることが明確にわかります。 代入のように "見える" (実際にはそうではありません) 構文を使用する方がよい場合は、上記の構文を同等の DataPackageView clipboardContent = Clipboard::GetContent(); に置き換えることができます。 ただし、目にするコードではどちらも頻繁に使用されている可能性があるため、両方の初期化表現方法に慣れておくことをお勧めします。

DisplayToast

DisplayToast は C# の MainPage クラスのパブリック静的メソッドであり、SampleConfiguration.cs で定義されています。 C++/WinRT では、それを SampleState のパブリック静的メソッドにします。

このメソッドの移植に関する詳細と手法のほとんどについては、既に説明してあります。 1 つ新しく注意する必要があることとして、C# の逐語的文字列リテラル (@) は、C++ の標準の未加工文字列リテラル (LR) に移植します。

また、C++/WinRT で ToastNotification 型と XmlDocument を参照するときは、名前空間名でそれらを修飾するか、SampleConfiguration.cpp を編集して次の例のような using namespace ディレクティブを追加することができます。

using namespace Windows::UI::Notifications;

XmlDocument 型を参照するとき、および他の任意の Windows ランタイム型を参照するときにも常に、同じ選択肢があります。

それらの項目以外については、前に説明したのと同じガイダンスに従って、次の手順のようにします。

  • SampleConfiguration.h でメソッドを宣言し、SampleConfiguration.cpp で定義します。
  • pch.h を編集して、必要なすべての C++/WinRT Windows 名前空間ヘッダー ファイルをインクルードします。
  • ヒープではなく、スタックで C++/WinRT オブジェクトを構築します。
  • プロパティの get アクセサーの呼び出しを、関数呼び出しの構文 (()) に置き換えます。

コンパイラやリンカーのエラーのよくある原因は、必要な C++/WinRT Windows 名前空間ヘッダー ファイルのインクルードを忘れることです。 考えられる 1 つのエラーについて詳しくは、「C3779: コンパイラーに "consume_Something: 'auto' を返す関数を、定義より前に使用することはできません" というエラーが発生するのはなぜですか。」を参照してください。

チュートリアルに従って DisplayToast を自分で移植したい場合は、自分の結果と、ダウンロードした Clipboard サンプル ZIP に含まれる C++/WinRT バージョンのソース コードを比較できます。

EnableClipboardContentChangedNotifications

EnableClipboardContentChangedNotifications は C# の MainPage クラスのパブリック静的メソッドであり、SampleConfiguration.cs において定義されています。

// SampleConfiguration.cs
...
public bool EnableClipboardContentChangedNotifications(bool enable)
{
    if (IsClipboardContentChangedEnabled == enable)
    {
        return false;
    }

    IsClipboardContentChangedEnabled = enable;
    if (enable)
    {
        Clipboard.ContentChanged += OnClipboardChanged;
        Window.Current.Activated += OnWindowActivated;
    }
    else
    {
        Clipboard.ContentChanged -= OnClipboardChanged;
        Window.Current.Activated -= OnWindowActivated;
    }
    return true;
}
...
private void OnClipboardChanged(object sender, object e) { ... }
private void OnWindowActivated(object sender, WindowActivatedEventArgs e) { ... }
...

C++/WinRT では、それを SampleState のパブリック静的メソッドにします。

C# では、+=-= の演算子構文を使用して、イベント処理デリゲートの登録と取り消しを行います。 C++/WinRT では、「C++/WinRT でのデリゲートを使用したイベントの処理」で説明されているように、デリゲートの登録と取り消しを行うための構文オプションがいくつかあります。 ただし、一般的な形式では、イベントの名前が付いた関数のペアを呼び出すことによって、登録と取り消しを行います。 登録するには、デリゲートを登録関数に渡し、返される取り消しトークンを取得します (winrt::event_token)。 取り消すには、そのトークンを取り消し関数に渡します。 この場合、ハンドラーは静的であり (次のコード リストを参照)、関数の呼び出し構文は簡単です。

同様のトークンは、実際には C# の内側で使用されています。 しかし、言語によってその詳細が暗黙になります。 C++/WinRT では、暗黙になります。

C# のイベント ハンドラーのシグネチャには、object 型が含まれます。 C# 言語では、object は、.NET の System.Object 型に対するエイリアスです。 C++/WinRT でそれに相当するのは、winrt::Windows::Foundation::IInspectable です。 そのため、C++/WinRT のイベント ハンドラーには IInspectable が含まれます。

以下のリストと一致するように、SampleConfiguration.h および SampleConfiguration.cpp を編集します。

// SampleConfiguration.h
...
    static bool EnableClipboardContentChangedNotifications(bool enable);
    ...
private:
    ...
    static event_token clipboardContentChangedToken;
    static event_token activatedToken;
    static void OnClipboardChanged(Windows::Foundation::IInspectable const& sender, Windows::Foundation::IInspectable const& e);
    static void OnWindowActivated(Windows::Foundation::IInspectable const& sender, Windows::UI::Core::WindowActivatedEventArgs const& e);
...

// SampleConfiguration.cpp
...
using namespace Windows::Foundation;
using namespace Windows::UI::Core;
using namespace Windows::UI::Xaml;
...
event_token SampleState::clipboardContentChangedToken;
event_token SampleState::activatedToken;
...
bool SampleState::EnableClipboardContentChangedNotifications(bool enable)
{
    if (isClipboardContentChangedEnabled == enable)
    {
        return false;
    }

    IsClipboardContentChangedEnabled(enable);
    if (enable)
    {
        clipboardContentChangedToken = Clipboard::ContentChanged(OnClipboardChanged);
        activatedToken = Window::Current().Activated(OnWindowActivated);
    }
    else
    {
        Clipboard::ContentChanged(clipboardContentChangedToken);
        Window::Current().Activated(activatedToken);
    }
    return true;
}
void SampleState::OnClipboardChanged(IInspectable const&, IInspectable const&){}
void SampleState::OnWindowActivated(IInspectable const&, WindowActivatedEventArgs const& e){}

今のところ、イベント処理デリゲート自体 (OnClipboardChangedOnWindowActivated) はスタブのままにしておきます。 これらは既に移植するメンバーのリストに含まれているので、後のサブセクションで説明します。

OnNavigatedTo

OnNavigatedTo は、C# の MainPage クラスの保護されたメソッドであり、MainPage.xaml.cs において定義されています。 以下では、それで参照されている XAML の ListBox と共に示されています。

<!-- MainPage.xaml -->
...
<ListBox x:Name="ScenarioControl" ... />
...
// MainPage.xaml.cs
protected override void OnNavigatedTo(NavigationEventArgs e)
{
    // Populate the scenario list from the SampleConfiguration.cs file
    var itemCollection = new List<Scenario>();
    int i = 1;
    foreach (Scenario s in scenarios)
    {
        itemCollection.Add(new Scenario { Title = $"{i++}) {s.Title}", ClassType = s.ClassType });
    }
    ScenarioControl.ItemsSource = itemCollection;

    if (Window.Current.Bounds.Width < 640)
    {
        ScenarioControl.SelectedIndex = -1;
    }
    else
    {
        ScenarioControl.SelectedIndex = 0;
    }
}

これは、Scenario オブジェクトのコレクションが UI に割り当てられる場所であり、重要で興味深いメソッドです。 C# のコードでは、Scenario オブジェクトの System.Collections.Generic.List が構築され、それが ListBox (項目コントロール) の ItemsSource プロパティに割り当てられます。 また、C# では、文字列補間を使用して、各 Scenario オブジェクトのタイトルが作成されています (特殊文字 $ の使用に注意)。

C++/WinRT では、OnNavigatedToMainPage のパブリック メソッドにします。 そして、ビルドが成功するように、スタブの ListBox 要素を XAML に追加します。 コード リストの後で、詳細をいくつか確認します。

<!-- MainPage.xaml -->
...
<StackPanel ...>
    ...
    <ListBox x:Name="ScenarioControl" />
</StackPanel>
...
// MainPage.h
...
void OnNavigatedTo(Windows::UI::Xaml::Navigation::NavigationEventArgs const& e);
...

// MainPage.cpp
...
using namespace winrt::Windows::UI::Xaml;
using namespace winrt::Windows::UI::Xaml::Navigation;
...
void MainPage::OnNavigatedTo(NavigationEventArgs const& /* e */)
{
    auto itemCollection = winrt::single_threaded_observable_vector<IInspectable>();
    int i = 1;
    for (auto s : MainPage::scenarios())
    {
        s.Title = winrt::to_hstring(i++) + L") " + s.Title;
        itemCollection.Append(winrt::box_value(s));
    }
    ScenarioControl().ItemsSource(itemCollection);

    if (Window::Current().Bounds().Width < 640)
    {
        ScenarioControl().SelectedIndex(-1);
    }
    else
    {
        ScenarioControl().SelectedIndex(0);
    }
}
...

やはり winrt::single_threaded_observable_vector 関数を呼び出しますが、ここでは IInspectable のコレクションを作成します。 それは、ジャストインタイムで Scenario オブジェクトのボックス化を実行するために行った決定の一部でした。

また、ここでは C# の文字列補間を使用する代わりに、to_hstring 関数と、winrt::hstring連結演算子の組み合わせを使用します。

isApplicationWindowActive

C# では、isApplicationWindowActiveMainPage クラスに属する単純なプライベート bool フィールドであり、SampleConfiguration.cs において定義されています。 既定値は false です。 C++/WinRT では、これを SampleConfiguration.h および SampleConfiguration.cpp ファイルの SampleState のプライベート静的フィールドにします (既に説明した理由のため)。既定値は同じです。

静的フィールドを宣言、定義、初期化する方法については既に説明しました。 見直す場合は、isClipboardContentChangedEnabled フィールドで行ったことを再確認し、isApplicationWindowActive でも同じことを行います。

needToPrintClipboardFormat

isApplicationWindowActive と同じパターンです (1 つ前の項目を参照)。

Button_Click

Button_Click は、C# の MainPage クラスのプライベート (イベント処理) メソッドであり、MainPage.xaml.cs において定義されています。 以下では、それで参照されている XAML の SplitView と、それを登録している ToggleButton と共に示されています。

<!-- MainPage.xaml -->
...
<SplitView x:Name="Splitter" ... />
...
<ToggleButton Click="Button_Click" .../>
...
private void Button_Click(object sender, RoutedEventArgs e)
{
    Splitter.IsPaneOpen = !Splitter.IsPaneOpen;
}

また、C++/WinRT に移植された同等のコードがこれです。 C++/WinRT バージョンでは、イベント ハンドラーが public であることに注意してください (ご覧のように、private: 宣言の "" で宣言します)。 これは、XAML マークアップがアクセスするために、このような XAML マークアップに登録されているイベント ハンドラーを C++/WinRT で public にする必要があるためです。 一方、命令型コードでイベント ハンドラーを (以前の MainPage::EnableClipboardContentChangedNotifications と同様に) 登録する場合、イベント ハンドラーを public にする必要はありません。

<!-- MainPage.xaml -->
...
<StackPanel ...>
    ...
    <SplitView x:Name="Splitter" />
</StackPanel>
...
// MainPage.h
...
    void Button_Click(Windows::Foundation::IInspectable const& sender, Windows::UI::Xaml::RoutedEventArgs const& e);
private:
...

// MainPage.cpp
void MainPage::Button_Click(Windows::Foundation::IInspectable const& /* sender */, Windows::UI::Xaml::RoutedEventArgs const& /* e */)
{
    Splitter().IsPaneOpen(!Splitter().IsPaneOpen());
}

DisplayChangedFormats

C# では、DisplayChangedFormatsMainPage クラスに属するプライベート メソッドであり、SampleConfiguration.cs において定義されています。

private void DisplayChangedFormats()
{
    string output = "Clipboard content has changed!" + Environment.NewLine;
    output += BuildClipboardFormatsOutputString();
    NotifyUser(output, NotifyType.StatusMessage);
}

C++/WinRT では、SampleConfiguration.h および SampleConfiguration.cpp ファイルで、SampleState のプライベート静的フィールドにします (どのインスタンス メンバーにもアクセスしません)。 このメソッドの C# コードでは、System.Text.StringBuilder は使用されていません。ただし、それを使用すると C++/WinRT バージョンに対する十分な文字列書式設定が行われ、これは std::wostringstream を使用するもう 1 つの適切な場所です。

C# コードで使用されている静的な System.Environment.NewLine プロパティの代わりに、標準の C++ std::endl (改行文字) を出力ストリームに挿入します。

// SampleConfiguration.h
...
private:
    static void DisplayChangedFormats();
...

// SampleConfiguration.cpp
void SampleState::DisplayChangedFormats()
{
    std::wostringstream output;
    output << L"Clipboard content has changed!" << std::endl;
    output << BuildClipboardFormatsOutputString().c_str();
    MainPage::Current().NotifyUser(output.str(), NotifyType::StatusMessage);
}

上の C++/WinRT バージョンの設計は、若干非効率的です。 最初に、std::wostringstream を作成しています。 しかし、BuildClipboardFormatsOutputString メソッド (前に移植したもの) も呼び出します。 そのメソッドでは、独自の std::wostringstream が作成されます。 そして、そのストリームを winrt::hstring に変換して、それを返します。 hstring::c_str 関数を呼び出して、返された hstring を C スタイルの文字列に戻し、ストリームに挿入します。 std::wostringstream を 1 つだけ作成し、それ (への参照) を受け渡して、メソッドが文字列を直接挿入できるようにすると、さらに効率的になります。

(ダウンロードした ZIP に含まれる) Clipboard サンプルの C++/WinRT バージョンのソース コードでは、それが行われています。 そのソース コードに含まれる SampleState::AddClipboardFormatsOutputString という名前の新しいプライベート静的メソッドは、出力ストリームへの参照を受け取って操作します。 そして、メソッド SampleState::DisplayChangedFormatsSampleState::BuildClipboardFormatsOutputString が、その新しいメソッドを呼び出すようにリファクタリングされています。 これは、このトピックのコード リストと機能的には同等ですが、より効率的です。

Footer_Click は、C# の MainPage クラスに属している非同期イベント ハンドラーであり、MainPage.xaml.cs において定義されています。 以下のコード リストは、ダウンロードしたソース コードのメソッドと機能的には同等です。 ただし、ここでは、1 行から 4 行に展開してあり、処理内容の確認と、それに基づく移植方法の決定を、簡単に行うことができます。

async void Footer_Click(object sender, RoutedEventArgs e)
{
    var hyperlinkButton = (HyperlinkButton)sender;
    string tagUrl = hyperlinkButton.Tag.ToString();
    Uri uri = new Uri(tagUrl);
    await Windows.System.Launcher.LaunchUriAsync(uri);
}

技術的には、メソッドは非同期であり、await の後は何も行われないため、await (または async キーワード) は必要ありません。 Visual Studio で IntelliSense メッセージが表示されないようにするために使用されることがよくあります。

C++/WinRT の同等のメソッドも非同期です (Launcher.LaunchUriAsync を呼び出すため)。 ただし、co_await を行ったり、非同期オブジェクトを返したりする必要はありません。 co_await および非同期オブジェクトについては、「C++/WinRT を使用した同時実行操作と非同期操作」を参照してください。

次に、メソッドの動作について説明します。 これは、HyperlinkButtonClick イベントに対するイベント ハンドラーであるため、sender という名前のオブジェクトは実際には HyperlinkButton です。 そのため、型変換は安全です (代わりに、この変換を sender as HyperlinkButton と表すこともできます)。 次に、Tag プロパティの値を取得します (C# プロジェクトの XAML マークアップを確認すると、これが Web URL を表す文字列に設定されていることがわかります)。 FrameworkElement.Tag プロパティ (HyperlinkButtonFrameworkElement です) は object 型ですが、C# では Object.ToString を使用してこれを文字列化できます。 結果の文字列から、Uri オブジェクトを構築します。 そして最後に、(シェルの助けを借りて) ブラウザーを起動し、URL に移動します。

C++/WinRT に移植されたメソッドを次に示します (やはり、わかりやすくするために展開されています)。その後で、詳しく説明します。

// pch.h
...
#include "winrt/Windows.System.h"
...

// MainPage.h
...
    void Footer_Click(Windows::Foundation::IInspectable const& sender, Windows::UI::Xaml::RoutedEventArgs const& e);
private:
...

// MainPage.cpp
...
using namespace winrt::Windows::Foundation;
using namespace winrt::Windows::UI::Xaml::Controls;
...
void MainPage::Footer_Click(Windows::Foundation::IInspectable const& sender, Windows::UI::Xaml::RoutedEventArgs const&)
{
    auto hyperlinkButton{ sender.as<HyperlinkButton>() };
    hstring tagUrl{ winrt::unbox_value<hstring>(hyperlinkButton.Tag()) };
    Uri uri{ tagUrl };
    Windows::System::Launcher::LaunchUriAsync(uri);
}

いつもと同じように、イベント ハンドラーは public にします。 sender オブジェクトで as 関数を使用して、それを HyperlinkButton に変換します。 C++/WinRT では、Tag プロパティは IInspectable です (Object と同等)。 ただし、IInspectable には Tostring はありません。 代わりに、IInspectable をスカラー値 (この場合は文字列) にボックス化解除する必要があります。 ここでも、ボックス化とボックス化解除の詳細については、「IInspectable への値のボックス化とボックス化解除」を参照してください。

最後の 2 行では前に見た移植パターンが繰り返されており、C# バージョンがほぼ反映されています。

HandleClipboardChanged

このメソッドの移植に関しては、新しいことは何もありません。 ダウンロードした Clipboard サンプル ZIP に含まれる C# および C++/WinRT バージョンのソース コードを比較できます。

OnClipboardChangedOnWindowActivated

ここまで、これら 2 つのイベント ハンドラーに対しては空のスタブしかありません。 しかし、移植するのは簡単であり、新しく説明することは何もありません。

ScenarioControl_SelectionChanged

これは、C# の MainPage クラスに属しているもう 1 つのプライベート イベント ハンドラーであり、MainPage.xaml.cs において定義されています。 C++/WinRT では、パブリックにして、MainPage.hMainPage.cpp で実装します。

このメソッドでは、プライベート ブール型フィールドである MainPage::navigatingfalse に初期化する必要があります。 また、MainPage.xamlScenarioFrame という名前の Frame が必要になります。 ただし、それらの詳細を除けば、このメソッドの移植に関して新しい手法はありません。

手動で移植する代わりに、ダウンロードしたクリップボード サンプル ソース コードの ZIP 内の C++/WinRT バージョンからコードをコピーしている場合は、MainPage::NavigateTo がそこで使用されています。 ここでは、NavigateTo の内容を ScenarioControl_SelectionChanged にリファクタリングするだけです。

UpdateStatus

MainPage.UpdateStatus については、ここまでスタブしかありません。 やはり、その実装の移植は、ほとんどが既出のものです。 1 つ注意の必要な新しい点は、C# では stringString.Empty を比較できますが、C++/WinRT では代わりに winrt::hstring::empty 関数を呼び出します。 もう 1 つ、C# の null に相当する標準の C++ は nullptr です。

移植の残りの部分は、既に説明した手法で実行できます。 このメソッドの移植されたバージョンをコンパイルする前に実行する必要があることの一覧を次に示します。

  • MainPage.xaml に対して、StatusBorder という名前の Border を追加します。
  • MainPage.xaml に対して、StatusBlock という名前の TextBlock を追加します。
  • MainPage.xaml に対して、StatusPanel という名前の StackPanel を追加します。
  • pch.h に対して、#include "winrt/Windows.UI.Xaml.Media.h" を追加します。
  • pch.h に対して、#include "winrt/Windows.UI.Xaml.Automation.Peers.h" を追加します。
  • MainPage.cpp に対して、using namespace winrt::Windows::UI::Xaml::Media; を追加します。
  • MainPage.cpp に対して、using namespace winrt::Windows::UI::Xaml::Automation::Peers; を追加します。

MainPage の移植を完了するために必要な XAML とスタイルをコピーする

XAML の理想的なケースは、C# プロジェクトと C++/WinRT プロジェクトで "同じ" XAML マークアップを使用できる場合です。 そして、Clipboard サンプルはそのようなケースの 1 つです。

Clipboard サンプルの Styles.xaml ファイルに含まれる XAML の ResourceDictionary というスタイルが、アプリケーションの UI 全体のボタン、メニュー、その他の UI 要素に適用されます。 Styles.xaml ページは App.xaml にマージされます。 そして、UI に対しては標準の MainPage.xaml 開始ポイントがあります。これについては、既に簡単に説明しました。 C++/WinRT バージョンのプロジェクトでは、それら 3 つの .xaml ファイルを、変更なしに再利用できます。

資産ファイルと同様に、アプリケーションの複数のバージョンから、同じ共有 XAML ファイルを参照できます。 このチュートリアルでは、わかりやすくするためだけに、ファイルを C++/WinRT プロジェクトにコピーして、そのように追加します。

\Clipboard_sample\SharedContent\xaml フォルダーに移動し、App.xamlMainPage.xaml を選択してコピーした後、それら 2 つのファイルを C++/WinRT プロジェクトの \Clipboard\Clipboard フォルダーに貼り付けます。メッセージが表示されたらファイルの置換を選択します。

Visual Studio の C++/WinRT プロジェクトで、[すべてのファイルを表示] をクリックしてオンに切り替えます。 次に、プロジェクト ノードのすぐ下に新しいフォルダーを追加し、Styles という名前を付けます。 エクスプローラーで、\Clipboard_sample\SharedContent\xaml フォルダーに移動し、Styles.xaml を選択してコピーし、先ほど作成した \Clipboard\Clipboard\Styles フォルダーに貼り付けます。 ソリューション エクスプローラーの C++/WinRT プロジェクトに戻り、Styles フォルダーを右クリックし、[追加]>[既存の項目...] を選択して、\Clipboard\Clipboard\Styles に移動します。 ファイル ピッカーで Styles を選択し、[追加] をクリックします。

C++/WinRT プロジェクトのプロジェクト ノードのすぐ下に、Styles という名前の新しいフォルダーを追加します。 \Clipboard_sample\SharedContent\xaml フォルダーに移動し、Styles.xaml を選択してコピーし、C++/WinRT プロジェクトの \Clipboard\Clipboard\Styles フォルダーにそれを貼り付けます。 (ソリューション エクスプローラーの C++/WinRT プロジェクトで) Styles フォルダーを右クリックし、>[追加]>[既存の項目...] を選択し、\Clipboard\Clipboard\Styles に移動します。 ファイル ピッカーで Styles を選択し、[追加] をクリックします。

[すべてのファイルを表示] をもう一度クリックしてオフに切り替えます。

これで MainPage の移植が完了しました。手順に従って作業を行った場合、C++/WinRT プロジェクトをビルドして実行できます。

.idl ファイルを統合する

Clipboard サンプルには、UI に対する標準の MainPage.xaml 開始ポイントに加えて、他に 5 つのシナリオ固有の XAML ページと、対応する分離コード ファイルがあります。 プロジェクトの C++/WinRT バージョンでは、これらすべてのページの実際の XAML マークアップを、変更しないで再利用します。 ここでは、以下のいくつかの大きなセクションでは、分離コードを移植する方法について説明します。 ただし、その前に、IDL について説明しましょう。

ランタイム クラスの IDL を 1 つの IDL ファイルに統合することには価値があります。 その価値の詳細については、「ランタイム クラスを Midl ファイル (.idl) にファクタリングする」をご覧ください。 そこで次に、CopyFiles.idlCopyImage.idlCopyText.idlHistoryAndRoaming.idlOtherScenarios.idl の内容を、その IDL を Project.idl という名前の 1 つのファイルに移動することによって (そして、元のファイルを削除して) 統合します。

それを行う間に、それらの 5 つの XAML ページ型から自動生成されたダミー プロパティ (Int32 MyProperty; とその実装) も削除してみましょう。

最初に、新しい Midl ファイル (.idl) 項目を C++/WinRT プロジェクトに追加します。 Project.idl と名前を付けます。 Project.idl のコンテンツ全体を次のコードに置き換えます。

// Project.idl
namespace SDKTemplate
{
    [default_interface]
    runtimeclass CopyFiles : Windows.UI.Xaml.Controls.Page
    {
        CopyFiles();
    }

    [default_interface]
    runtimeclass CopyImage : Windows.UI.Xaml.Controls.Page
    {
        CopyImage();
    }

    [default_interface]
    runtimeclass CopyText : Windows.UI.Xaml.Controls.Page
    {
        CopyText();
    }

    [default_interface]
    runtimeclass HistoryAndRoaming : Windows.UI.Xaml.Controls.Page
    {
        HistoryAndRoaming();
    }

    [default_interface]
    runtimeclass OtherScenarios : Windows.UI.Xaml.Controls.Page
    {
        OtherScenarios();
    }
}

ご覧のように、これは個々の .idl ファイルの内容のコピーを 1 つの名前空間に収めて、各ランタイム クラスから MyProperty を削除したものです。

Visual Studio のソリューション エクスプローラーで、元のすべての IDL ファイル (CopyFiles.idlCopyImage.idlCopyText.idlHistoryAndRoaming.idlOtherScenarios.idl) を複数選択し、[編集]>[削除] を選択します (ダイアログで [削除] を選択)。

最後に、MyProperty の削除を完了するため、同じ 5 つの各 XAML ページ型それぞれに対する .h ファイルおよび .cpp ファイルで、int32_t MyProperty() アクセサー関数と void MyProperty(int32_t) ミューテーター関数の宣言と定義を削除します。

ちなみに、XAML ファイルの名前は、それが表すクラスの名前と一致させることをお勧めします。 たとえば、XAML マークアップ ファイルに x:Class="MyNamespace.MyPage" がある場合、そのファイルに MyPage.xaml という名前を付ける必要があります。 これは技術要件ではありませんが、同じ成果物にさまざまな名前を付けて苦労することがなくなるため、プロジェクトの理解、保守、操作が容易になります。

CopyFiles

C# プロジェクトでは、CopyFiles XAML ページ型は、CopyFiles.xaml および CopyFiles.xaml.cs ソース コード ファイルで実装されています。 CopyFiles の各メンバーを順番に見ていきましょう。

rootPage

これはプライベート フィールドです。

// CopyFiles.xaml.cs
...
public sealed partial class CopyFiles : Page
{
    MainPage rootPage = MainPage.Current;
    ...
}
...

C++/WinRT では、次のように定義し、初期化することができます。

// CopyFiles.h
...
struct CopyFiles : CopyFilesT<CopyFiles>
{
    ...
private:
    SDKTemplate::MainPage rootPage{ MainPage::Current() };
};
...

やはり (MainPage::current の場合と同様に)、CopyFiles::rootPageSDKTemplate::MainPage 型として宣言されています。これは、投影型であり、実装型ではありません。

CopyFiles (コンストラクター)

C++/WinRT プロジェクトの CopyFiles 型には、必要なコードが含まれるコンストラクターが既に存在します (InitializeComponent を呼び出すだけです)。

CopyButton_Click

C# の CopyButton_Click メソッドはイベント ハンドラーであり、シグネチャの async キーワードから、メソッドが非同期で動作することがわかります。 C++/WinRT では、非同期メソッドを "コルーチン" として実装します。 C++/WinRT での同時実行の概要と、"コルーチン" の説明については、「C++/WinRT を使用した同時実行操作と非同期操作」を参照してください。

コルーチンが完了した後で他の作業をスケジュールするのが一般的であり、そのような場合は、コルーチンで待機可能な非同期オブジェクト型を返し、必要に応じて進行状況を報告します。 ただし、これらの考慮事項は、通常、イベント ハンドラーには適用されません。 したがって、非同期操作を実行するイベント ハンドラーがある場合は、winrt::fire_and_forget を返すコルーチンとして実装できます。 詳細については、「ファイア アンド フォーゲット」を参照してください。

ただし、ファイア アンド フォーゲット コルーチンのアイデアは、その完了を気にする必要がなく、処理はバックグラウンドで続行されている (または、中断されて再開を待機している) ということです。 C# の実装からは、CopyButton_Clickthis ポインターに依存していることがわかります (インスタンス データ メンバー rootPage にアクセスします)。 したがって、this ポインター (CopyFiles オブジェクトへのポインター) が CopyButton_Click コルーチンより長く存在していることを確認する必要があります。 このサンプル アプリケーションのような、ユーザーが UI ページ間を移動する状況では、それらのページの有効期間を直接制御することはできません。 CopyButton_Click がバックグラウンド スレッドでまだ実行している間に、CopyFiles ページを (他の場所に移動することによって) 破棄した場合、rootPage へのアクセスが安全ではなくなります。 コルーチンを正しくするには、this ポインターへの強参照を取得し、コルーチンが継続している間、その参照を保持する必要があります。 詳しくは、「C++/WinRT の強参照と弱参照」をご覧ください。

サンプルの C++/WinRT バージョンを見ると、CopyFiles::CopyButton_Click において、それがスタックの単純な宣言を使用して実行されていることがわかります。

fire_and_forget CopyFiles::CopyButton_Click(IInspectable const&, RoutedEventArgs const&)
{
    auto lifetime{ get_strong() };
    ...
}

移植されたコードの他の注目すべき点を見てみましょう。

コードでは、FileOpenPicker オブジェクトがインスタンス化されており、その 2 行後で、オブジェクトの FileTypeFilter プロパティにアクセスしています。 そのプロパティの戻り値の型では、文字列の IVector が実装されています。 そして、その IVector では、IVector<T>.ReplaceAll(T[]) メソッドが呼び出されています。 興味深いのは、そのメソッドに渡されている値であり、そこでは配列が想定されています。 そのコード行を次に示します。

filePicker.FileTypeFilter().ReplaceAll({ L"*" });

渡している値 ({ L"*" }) は、C++ の標準の "初期化子リスト" です。 この例ではそれには 1 つのオブジェクトが含まれていますが、初期化子リストには任意の数のコンマ区切りオブジェクトを含めることができます。 このようなメソッドに初期化子リストを渡すことができる C++/WinRT の便利な機能については、「標準的な初期化子リスト」で説明されています。

C# の await キーワードは、C++/WinRT では co_await に移植します。 コードの例を次に示します。

auto storageItems{ co_await filePicker.PickMultipleFilesAsync() };

次に、この C# コード行について考えます。

dataPackage.SetStorageItems(storageItems);

C# では、storageItems によって表される IReadOnlyList<StorageFile> を、DataPackage.SetStorageItems で必要な IEnumerable<IStorageItem> に、暗黙的に変換できます。 しかし、C++/WinRT では、IVectorView<StorageFile> から IIterable<IStorageItem> に明示的に変換する必要があります。 そこで、as 関数の動作に関するもう 1 つの例を示します。

dataPackage.SetStorageItems(storageItems.as<IVectorView<IStorageItem>>());

C# では null キーワードを使用する場所で (例: Clipboard.SetContentWithOptions(dataPackage, null))、C++/WinRT では nullptr を使用します (例: Clipboard::SetContentWithOptions(dataPackage, nullptr))。

PasteButton_Click

これは、ファイア アンド フォーゲット コルーチンの形式になっているもう 1 つのイベント ハンドラーです。 移植されたコードの注目すべき点を見てみましょう。

サンプルの C# バージョンでは、catch (Exception ex) で例外をキャッチしています。 移植された C++/WinRT のコードでは、catch (winrt::hresult_error const& ex) という式になっています。 winrt::hresult_error およびその使用方法の詳細については、「C++/WinRT でのエラー処理」を参照してください。

C# オブジェクトが null かどうかをテストする例は、if (storageItems != null) です。 C++/WinRT では、bool への変換演算子を使用できます。そこでは、内部的に nullptr のテストが行われます。

サンプルの移植された C++/WinRT バージョンのコード フラグメントを少し簡略化したバージョンを次に示します。

std::wostringstream output;
output << std::wstring_view(ApplicationData::Current().LocalFolder().Path());

このような winrt::hstring からの std::wstring_view の構築は、hstring::c_str 関数の呼び出し (winrt::hstring を C スタイルの文字列に変換するため) に対する代替手段を示します。 この代替手段は、hstringstd::wstring_view への変換演算子によって機能します。

次のような C# のフラグメントについて考えます。

var file = storageItem as StorageFile;
if (file != null)
...

C# の as キーワードを C++/WinRT に移植するため、これまで as 関数が使用されているのを 2 回見ました。 その関数では、型変換が失敗すると例外がスローされます。 しかし、変換が失敗した場合に nullptr を返す場合は (コード内でその状態を処理できるようにするため)、代わりに try_as 関数を使用します。

auto file{ storageItem.try_as<StorageFile>() };
if (file)
...

CopyFiles の移植を完了するために必要な XAML をコピーする

これで、元のサンプル ソース コードのダウンロードの shared フォルダーの CopyFiles.xaml ファイルの内容全体を選択し、それを C++/WinRT プロジェクトの CopyFiles.xaml ファイルに貼り付けることができます (C++/WinRT プロジェクトでのそのファイルの既存の内容を置き換えます)。

最後に、対応する XAML マークアップを上書きしたので、CopyFiles.h.cpp を編集して、ダミーの ClickHandler 関数を削除します。

これで CopyFiles の移植が完了しました。手順に従って作業を行った場合、C++/WinRT プロジェクトをビルドして実行でき、CopyFiles シナリオが機能するようになります。

CopyImage

CopyImage XAML ページ型を移植するには、CopyFiles と同じ手順に従います。 CopyImage の移植には、C# の "using ステートメント" が使用されている箇所があります。これにより、IDisposable インターフェイスを実装しているオブジェクトが、正しく破棄されるようになります。

if (imageReceived != null)
{
    using (var imageStream = await imageReceived.OpenReadAsync())
    {
        ... // Pass imageStream to other APIs, and do other work.
    }
}

C++/WinRT でこれに相当するインターフェイスは、IClosable とその単一の Close メソッドです。 上記の C# コードに相当する C++/WinRT を次に示します。

if (imageReceived)
{
    auto imageStream{ co_await imageReceived.OpenReadAsync() };
    ... // Pass imageStream to other APIs, and do other work.
    imageStream.Close();
}

C++/WinRT のオブジェクトでは、主として確定的な終了処理を持たない言語のメリットのために、IClosable が実装されています。 C++/WinRT には確定的な終了処理があるため、C++/WinRT を記述するときは、IClosable::Close を呼び出す必要がないことがよくあります。 ただし、それを呼び出すことが適切な場合もあり、これはそのような場合の 1 つです。 ここで、imageStream 識別子は、基になる Windows ランタイム オブジェクト (この場合は、IRandomAccessStreamWithContentType を実装するオブジェクト) に対する参照カウント ラッパーです。 imageStream (そのデストラクター) のファイナライザーが外側のスコープの最後 (中かっこ) に実行されることは確認できますが、そのファイナライザーで Close が呼び出されることは確実ではありません。 これは、imageStream を他の API に渡しても、基になる Windows ランタイム オブジェクトの参照カウントに加算される可能性があるためです。 そのため、このような場合は、Close を明示的に呼び出すことをお勧めします。 詳しくは、「使用するランタイム クラスで IClosable::Close を読み出す必要性」をご覧ください。

次に、C# の式 (uint)(imageDecoder.OrientedPixelWidth * 0.5) について考えます。これは、OnDeferredImageRequestedHandler イベント ハンドラーにあります。 その式では、uintdouble を乗算し、double を得ています。 その後、それを uint にキャストします。 C++/WinRT では、同様の C スタイルのキャスト ((uint32_t)(imageDecoder.OrientedPixelWidth() * 0.5)) を使用することも "できます" が、意図するキャストの種類を正確に明示することをお勧めします。この例では static_cast<uint32_t>(imageDecoder.OrientedPixelWidth() * 0.5) を使用します。

C# バージョンの CopyImage.OnDeferredImageRequestedHandler には、finally 句はありますが、catch 句はありません。 C++/WinRT バージョンではもう少し進めて、遅延レンダリングが成功したかどうかを報告できるように catch 句を実装しました。

この XAML ページの残りの部分の移植については、新たに説明することはありません。 ダミーの ClickHandler 関数を削除することを忘れないでください。 また、CopyFiles と同様に、移植の最後のステップでは、CopyImage.xaml の内容全体を選択し、それを C++/WinRT プロジェクトの同じファイルに貼り付けます。

CopyText

既に説明した手法を使用して、CopyText.xamlCopyText.xaml.cs を移植することができます。

HistoryAndRoaming

HistoryAndRoaming XAML ページ型の移植では、いくつか重要な点が発生します。

まず、C# のソース コードを見て、OnNavigatedTo から OnHistoryEnabledChanged イベント ハンドラーを経て最後に非同期関数 CheckHistoryAndRoaming (これは待機しないため、基本的にファイア アンド フォーゲットです) に至る、制御の流れを辿ってください。 CheckHistoryAndRoaming は非同期であるため、C++/WinRT では this ポインターの有効期間について注意する必要があります。 HistoryAndRoaming.cpp ソース コード ファイルの実装を見ると、結果を確認できます。 まず、Clipboard::HistoryEnabledChanged イベントと Clipboard::RoamingEnabledChanged イベントにデリゲートをアタッチするときは、HistoryAndRoaming ページ オブジェクトへの弱参照のみを取得します。 それを行うには、this ポインターへの依存関係ではなく、winrt::get_weak から返された値に対する依存関係でデリゲートを作成します。 つまり、最終的に非同期コードを呼び出すデリゲート自体では、HistoryAndRoaming ページから余所に移動するときに、ページは保持されません。

2 番目として、最終的にファイア アンド フォーゲットの CheckHistoryAndRoaming コルーチンに達したときに、最初に行うことは、少なくともコルーチンが最後に完了するまで HistoryAndRoaming ページが確実に存在するように、this への強参照を取得することです。 ここで説明した両方の点の詳細については、「C++/WinRT の強参照と弱参照」を参照してください。

CheckHistoryAndRoaming の移植には、もう 1 つ興味深い点があります。 それには UI を更新するためのコードが含まれるので、それがメイン UI スレッドで実行されていることを確認する必要があります。 最初にイベント ハンドラーを呼び出すスレッドは、メイン UI スレッドです。 ただし、通常、非同期メソッドは任意のスレッドで実行または再開できます。 C# でそれを解決するには、CoreDispatcher.RunAsync を呼び出し、ラムダ関数内から UI を更新します。 C++/WinRT では、winrt::resume_foreground 関数を this ポインターの Dispatcher と共に使用して、コルーチンを中断し、メイン UI スレッドですぐに再開することができます。

関連する式は co_await winrt::resume_foreground(Dispatcher()); です。 または、わかりにくくなりますが、単に co_await Dispatcher(); と表現することもできます。 より短いバージョンは、C++/WinRT によって提供される変換演算子によって実現されます。

この XAML ページの残りの部分の移植については、新たに説明することはありません。 ダミーの ClickHandler 関数を削除し、XAML マークアップを上書きコピーすることを忘れないでください。

OtherScenarios

既に説明した手法を使用して、OtherScenarios.xamlOtherScenarios.xaml.cs を移植することができます。

まとめ

このチュートリアルでは、移植に関する十分な情報と手法を説明したので、今度はご自分の C# アプリケーションを C++/WinRT に移植できるはずです。 復習のために、引き続き Cliboard サンプルの "移植前" (C#) と "移植後" (C++/WinRT) のバージョンのソース コードを並べて比較し、対応を確認することができます。